税理士 向山裕純の税のなんだパンダ

創業45年を迎えました。難しいと思われがちな税金についてわかりやすい解説をしていきます。税金以外にも時事問題など取り上げていきます。

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2013年〝相続時代〟の幕開け 金融緩和だけではデフレ脱却できない!? その2

地価上昇で健全なインフレに誘導
 金融緩和だけがひとり歩きしているようにみえる「アベノミクス」だが、金融緩和強化と積極財政によってデフレ脱却を目指す政策は、基本的には間違っていない。ただし、景気回復に向けた政策としては、これだけでは不十分だ。相続税・法人税の大胆な減税策や、不動産を中心とした内需関連への景気刺激策など、あくまでも金融政策とは別に、独立した財政政策・経済政策を進行させていかなければ、デフレからの脱却も健全なインフレへの誘導も、景気回復も図れないだろう。従来までの、増税による財政再建と構造改革を中心とした成長戦略だけでは「失われた20年」が「30年」になるだけで、これに金融緩和政策を加えても、容易にデフレが解消するとは考えにくい。
 「アベノミクス」は、量的な金融緩和によるインフレ誘導でデフレ脱却を図るというものだ。しかし、本気でデフレからの脱却を狙うなら、相続税分野での大幅な税制改正など、財政政策の進展が不可欠だといえる。
たとえば、不動産にかかる相続税の税率を大幅に低くしたり、課税標準が低くなるように算定方式を設定したり、思い切って非課税にしたりすれば、国内の不動産需要は一気に拡大する。現行でも、資産を現金で残すより不動産に投資したほうが、節税のメリットが大きい場合がほとんどだが、相続税が非課税になれば、事前対策として不動産を購入する動きが現状とは比較にならないほど活発になるはずだ。ここ数年の税制改正では、「相続」よりも「贈与」での税メリットを手厚くすることで、高齢富裕層から若年層への世代間資産移動を促進しようとしているが、不動産市場を起爆剤にして内需全体を刺激するためには、不動産にかかる相続税の非課税化など、思い切って大胆な政策が効果的であることは間違いない。もちろん、これによる減税分を補う財源の確保も必要だが、少なくとも不動産での内需が拡大すれば、地価・物件価格の上昇に伴って毎年の固定資産税は税収アップとなり、不動産売買取引で生じる消費税や登録免許税の税収も増加する。
 不動産にかかる相続税の割合はここ数年、減少を続けているが、これは納税者が資産を現金や有価証券で持つようになったからではなく、地価の下落により課税標準が低くなったためだ。不動産にかかる相続税を非課税にしてしまえば、その分の税収もゼロになってしまうが、需要が増えれば地価は値上がりし、それによって建築費や家賃もアップするのだから、必然的に物価全体の上昇を招く。しかしこれは、需給バランスによる自然なインフレであり、量的な金融緩和だけで「2~3%」を目標にしようとする「インフレターゲット」などよりも、はるかに健全な姿ではないか。
 政府・日銀が「アベノミクス」の推進で量的な金融緩和に踏み切っても、国内に有望な投資先がなければ市中銀行のマネーは海外に流出してしまう。だが、不動産への相続税非課税化などで市場が活性化すれば、建設にも購入にも旺盛な資金需要が生まれ、マネーは国内マーケットを還流するようになる。相続税の大胆な減税という財政政策によって、金融緩和政策で充分に供給されたマネーが海外に流出することなく、景気回復の呼び水となって日本経済の再浮上に寄与する。もちろん、これとは別に需給バランスをコントロールするための政策を用意し、バブル期の二の舞とならないように、投機筋による不動産投資が過熱することへの監視・規制や、金融機関の行き過ぎた融資に歯止めをかける措置を講じる必要もある。つまり、「複数の独立した課題には、複数の独立した政策」を用意してあたる必要があるわけだ。

法人税減税で事業承継の円滑化を
 金融緩和政策だけでは、量的に潤沢になったマネーが国内マーケットに還流することは考えにくい。大企業だけに限らず、中小企業も生き残りをかけて海外市場をターゲットにしている。こうした企業が生産拠点を海外へ移転する動きには歯止めがかからず、国内の産業と雇用の空洞化には拍車がかかるばかりだ。個人資産も海外へ続々と流失している。〝富裕層〟を中心に、税負担の軽い諸外国への〝資産フライト〟は活発化する一方だ。
中小企業経営者のなかにも、事業承継・相続税対策の一環として、海外への〝脱出〟を本気で検討する動きが出ている。相続税だけではなく、法人税や所得税の重い税負担を考えたとき、元気なうちに海外への移住を選択肢のひとつに加えるのは、むしろ当然のことなのかもしれない。相続税負担のために中小企業の事業承継が困難になってしまっては、日本経済を根底で支える技術やノウハウが失われていく。逆に、こうした企業を誘致し、豊富な経営ノウハウや技術力を持った経営者・技術者を迎え入れる諸外国では、新たな雇用が生まれ、経済発展を遂げていく。
 事業承継を円滑に実施できるようにし、税負担の面でも海外より魅力のあるものにしていかない限り、日本の産業は衰退していくばかりだ。これをストップさせるためにも、法人税の実効税率を思い切って10%程度へ引き下げ、その代わりに低率の外形標準課税を導入することなどによって、税制面で企業活動をバックアップすることが必要ではないか。
 「アベノミクス」は金融緩和政策だけではなく、たとえば3年間の「景気回復集中期間」を設定するのなら、具体的な景気刺激のための経済政策と、それと併行して法人税率引き下げなどの財政政策を同時進行させるべきだ。仮にその3年目で景気回復が軌道に乗っていたら、その時点で規制緩和、社会保障対策、消費税増税を検討すればいい。納税者が不安に思うのは、具体的な政策の中身と、そのロードマップが示されないからで、目標に到達するまでのタイムスケジュールを確認することができれば、その進捗状況が多少遅れていても、政策に対する疑念は大幅に払拭されるだろう。

税負担さえ軽減すれば勝算はある
 ここ数年、日本はアジアの「企業拠点誘致競争」「富裕層流入競争」などで劣勢の状況が続いている。シンガポールや香港などに多国籍企業のアジア拠点は移っているし、メーカーの研究開発拠点も韓国や台湾に移っている。外資系の金融機関は、この数年で多くの機能を日本からアジア諸国に移転させている。そしてなにより、多額の個人資産を持つ日本の富裕層が、シンガポールや香港に〝資産フライト〟している。その理由は、一にも二にも「税金」なのだ。
 これらの国々は、企業や優秀な人材が集まりやすいように税金を安くしている。多くの国では所得税も法人税も10%台で、日本のそれよりもはるかに税負担が少なくてすむ。日本の法人税は、法人地方税・法人事業税を含めると多くの企業が約38%もの法定実効税率(復興特別増税分を含む)を負担している。所得税の最高税率は40%で、住民税と合わせると50%にもなる。これでは日本に、海外の企業や優秀な人材などが集まってくるはずがない。
日本は、アジア諸国に比べて、税金の面ではるかに見劣りがしている。魅力のない税制のままでは企業を誘致するどころか、国内の優良企業や富裕層が先を争って海外へ逃げていってしまう。その結果、税収が減少し、結局は「改革」で強化するはずだった年金・医療などの社会保障制度が脆弱なものになっていく。
 社会インフラが整備されていて治安も悪くない日本は、「税金」さえアジア諸国並に低く抑えることができれば、国際企業資本や海外富裕層がどっと流れ込んでくる可能性を秘めている。もともと経済と技術のポテンシャルは高いのだから、「税金」さえ〝普通〟にすれば、アジア諸国との競争にも勝算は見出せるはずだ。
金融緩和政策も、別の独立した政策と連動して推進していくのならば大いに結構だ。だが、デフレからの脱却と、それによる景気回復を目指そうというのならば、企業資本や個人資産が海外への〝脱出〟を図ろうとする現行の税制を見直すことが先決だろう。相続税を増税しても、所得税の最高税率を引き上げても、法人税率を引き下げないままでも、そもそも国内から納税者がいなくなってしまっては、税収は上がらないのだ。
 商売の格言に「損して、得取れ」がある。日銀に建設国債を直接引き受けさせて、資金供給量を増やしても、その〝マネー〟までもが海外の投資運用先に消えていき、国内市場に還流されないのでは本末転倒だ。2013年からは復興増税のかたちで所得税増税がスタートし、新政権でも消費税増税の断行は既定路線になっている。これに加えて、所得税の最高税率引き上げや、相続税の大増税も「予定」されているが、そろそろ増税による税収アップという目先の「得」ばかりを追うのでなく、世界中からヒトもマネーもビジネスも集まってくるような魅力ある国にするために、まずは相続税の不動産非課税化など、大胆な減税策での「損」を考えてみてはどうか。それが結局は、「損して得を取る」には最短コースの政策であると、本紙は年頭にあたって提言したい。

【エヌピー通信社 納税通信 2013年新春号より引用】


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