税理士 向山裕純の税のなんだパンダ

創業44年を迎えました。難しいと思われがちな税金についてわかりやすい解説をしていきます。税金以外にも時事問題など取り上げていきます。

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「質問応答記録書」から考える納税者の権利

「質問応答記録書」から考える納税者の権利
今回は、提携しているNP通信社からの情報を掲載いたします。

最近、一般の税務調査、つまり「任意調査」で調査担当官が納税者から聴き取った内容だとして書面にしたものに納税者の署名・押印を求める事例が目立つようになっている。税理士から戸惑いの声も少なくない。税務調査で何が起きているのか。納税者はいかに対応すべきなのか。そして税理士にどのように相談し、共に対処すべきなのだろうか。確申期のまっただ中のいま、考えてみたい。

◆多様な調査方法?

税務調査手続を法制化した改正国税通則法施行から3年が経過した。税務調査は事前通知が原則となり、そして調査終了の際の手続きも明確にすることになった。結果、当然ではあるが調査件数は減少している。そうした状況に危機感を抱いたのか、国税庁は実地調査以外の「多様な手法」を繰り出して、納税者接触を強めようとしているようだ。それが「ハイブリッド調査」と呼ばれるものである。これは、質問検査権の行使である実地調査と税務署に呼び出しての机上調査、加えて、調査ではないが行政指導として納税者に対応を求める「お尋ね」文書の乱発である。強制力のある方法と強制力のない方法を意図的に混在させて実施されることから、いわば悪質な行政手法の定着化の試みといえよう。これでは、国税通則法改正が目指した調査手続の透明性および納税者の予見可能性を高めるという目的が否定されかねない。
そして、さらに重大な問題も起きている。「質問応答記録書」という聞きなれない書面を調査担当官が作成し、これに納税者の署名・押印を求めるという事例が増加しているのである。以前の調査では「申述書」や「確認書」という書面を提出させるという例が散見されていた。これらはいわば〝反省文〞だが、これらは重加算税賦課の根拠とされ、その文末には決まって「寛大なる措置をお願いしたい」などと書かせていた。こうしたことから、納税者に対する強制性が問題視されたが、同時に課税庁内部では争訟における証拠能力に疑問が出されていた。
これを補強するため、調査担当官と納税者の問答形式で作成して証拠能力の強化を図ろうとして登場したのが「聴取書」だ。犯罪捜査の際に検察官が作成する「供述調書」と同様の形式を採用したため、その違法性が問題視されたものである。

◆開示された墨塗り文書

課税当局は、「聴取書」を作成する目的を「課税要件事実の立証手段の一つを確保しておくということに尽きます」としていた。以下、東京国税局訟務官室が平成18年12月に作成した「聴取書作成のポイント」から見てみたい。
まずは「自ら作成した聴取書がどのように活用されるのかを理解していないと、将来の課税争訟の証拠となる有効な聴取書を作成できないといった可能性も生じます」とし、「裁判所に証拠としての提出」することを前提としている。この聴取書は、課税処分の適法性を立証する証拠として「裁判官の判断の材料とされます」と説明する。ただし、それだけではこの文書の形式的証拠能力が認められても、その内容が「真正なもの」になるわけではないので、書き方が重要だと指摘する。
まず形式として、作成者、作成場所・日時、被聴取者の署名・押印、聴取書に添付する書類をあげ、次いで記録すべき内容として、立証すべき事項(作成目的)の明確化、事前準備の重要性、真実性の確保、具体性の確保をあげている。
残念ながら、税理士会が開示請求したこの文書のほとんどが墨塗りの不開示とされているので、よほど納税者側に知られたくないことが書かれているようではある。

◆納税者の「任意」は本物か

しかし、これらの部分だけでも理解できることは多い。この聴取書は、納税者とのやり取りを記録した税務署の単なる内部資料ではない。作成者は調査担当官であり、発言者(聴取された側)の署名・押印が求められるというのであるから、納税者に自発的作成の要素はない。「言質を取られる」のである。「私はこれこれしかじかの理由で脱税をしました。その方法は云々」というわけである。
この聴取書を作成する場合は、もともとは重加算税を賦課する要件となる証拠、つまり仮名預金や二重帳簿作成というような「隠ぺい又は仮装」の具体的証拠がないときに威力を発揮するとされたものだ。このような、検察官が作成する「自白調書」まがいの書面が納税者の自発的協力をもとに作成されるかという疑問がそもそも指摘されていた。一般の税務調査は任意調査であって、強制調査ではないから、納税者の任意の協力が大前提である。国税通則法改正によって調査手続の明確化が行われたのは、調査という特別なシーンにおいて、いかに課税庁と納税者との「対等性」を確保するかという難しいテーマを実現すべく生まれたものであった。こうした環境の変化を国税庁はどのように理解したのであろうか。

◆「記録書」の仕組み

そこで、現れたのが「質問応答記録書」である。国税庁課税総括課が平成25年6月に作成した「質問応答記録書作成の手引」に基づいてその問題点を指摘しておきたい(これも墨塗りが多い)。
まず、作成に当たっては事前準備を求める。「①何を目的として、②誰に対して、③何を聞くのかを整理し、④提示できる資料は何かなどの事前準備をしたうえで、回答者に質問をする」とし、作成の際には納税者に対して「作成の趣旨や作成手順を説明する」としている。作成は納税者の面前で行うとは限らず、「別の機会に回答者に読み上げ・提示・署名押印の手続を行っても差し支えない」とする。
税務署サイドは2人で、「質問者」と「記録者」を分担。回答者の署名押印は、「本文最終行の次の行に、『回答者』と表記した右横のスペースに求める」と場所を指定。そして、各ページや添付資料の「右下隅に押印を求める」と確認印も押印させる。そして、「調査時に写しを交付してはならない。回答者から、これらを要求されても応じられない旨を説明する」とコピー交付を禁止している。納税者が冷静にその内容を判断する余裕を与えず、また後日訂正を求められないようそのコピーも禁止しているのである。これを作成され、署名押印させられた納税者は、身ぐるみはがされた思いをすることになろう。これが、全国統一的に実施されるのである。ここには、納税者の権利保障の観点は認めがたい。

◆実際の事例にみる質問応答記録書

熊本国税局管内のT税務署の例である。昨年9月末に無予告調査で4名の税務職員が納税者宅に臨場。納税者本人が不在であったため、隣人に身分証明書を提示して連絡先を聞き出し、本人の承諾なしで従業員が保管していた書類を持ち帰った。翌日には、その従業員から「質問応答記録書」を徴し、それを前提に納税者本人から二度にわたって「質問応答記録書」に署名捺印させた。これを根拠に、7年遡及、全期間重加算税の賦課として、この納税者は修正申告を迫られている。調査終了手続は取られていないにもかかわらず、修正申告の勧奨が行われ、昨年暮れには「今修正に応じれば税額で200万円減らせる」という誘導までされている。
この納税者は、調査は初めての経験。慌てて勉強して調査手続きの法制化のことを理解。税務署に対して法令順守していないことを指摘して、通常の調査を行うよう求めているが、税務署は聞く耳を持たず7年遡及・重加算税賦課の姿勢を変えていない。無予告調査の適法性についても疑問視した納税者は、個人情報保護法による開示請求で税務署内部の「事前通知を要しない調査の適否検討表」を入手。しかし真っ黒に塗りつぶされていて、なぜ無予告調査を行ったのか不明のままである。
このように法定手続の無視とあわせて「質問応答記録書」は使われる。更正の期間が制限される3月15日を控えて、本当に処分がなされるのか納税者は眠れない日々を過ごしている。

◆対応は税理士と二人三脚で

このような文書を任意調査で作成することを法は予定していない。事実上の供述調書(自白調書)の作成というこの調査手法は、適正手続を欠落しており、国税通則法改正の趣旨を否定するものである。まして、脱税の証拠がない状態であるにもかかわらず、証拠を「偽造」するような手法は「冤罪」を作り出す手法に等しい。
こうした文書が作成されるシーンを想像するに、納税者は相当追いつめられた心境に陥っていよう。その場に税務代理人(税理士や弁護士)が寄り添って、断固とした適切な対応が求められるのは言うまでもない。


  参考文献: 納税通信3413号(2016年3月14日付)岡田俊明著 NP通信社発行
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| 税務調査 | 18:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ふるさと納税ワンストップ特例制度

確定申告不要制度が始まりました

 平成27年度税制改正大綱が公表され、2015(平成27)年1月14日に閣議決定されました。その中で『ふるさと納税』についても見直しが行われています。その中でも注目点は、2015(平成27)年4月1日以後に行われるふるさと納税について摘要される『ふるさと納税ワンストップ特例制度』です。
 今回は、『ふるさと納税ワンストップ特例制度』を中心に改正点を見ていきたいと思います。

1.『ふるさと納税』とは(現行の規定)
自治体に対してふるさと納税(寄附)をすると、ふるさと納税(寄附)額のうち2,000円を超える部分について、一定の上限まで、原則として所得税・個人住民税から全額が控除されます。
 控除を受けるためには、ふるさと納税をした翌年に、確定申告を行うことが必要です(原則)。
 自分の生まれ故郷に限らず、応援したい自治体など、どの自治体に対する寄附でも対象となります。

2.平成27年度税制改正大綱による改正点
(1)特例控除額の拡充
 ふるさと納税を行う際、2,000円を除いた全額が控除される限度額である「ふるさと納税枠」が、個人住民税所得割額の現行1割から2割に引上げられました。
 平成28年分以後の個人住民税(2015(平成27)年1月1日以降のふるさと納税)から適用となります。

(2)ふるさと納税ワンストップ特例制度
 ①制度の概要
  給与所得のみの方などは、ふるさと納税に興味があっても確定申告するのは面倒だと思わていた方も多かったのでは有りませんか。今回の改正で一定の条件を満たせば確定申告をしなくてもふるさと納税ができるようになりました。この場合、個人住民税のみから寄付金額の控除が行われ、所得税からの減額はありません。
②摘要条件
 ⓐ ふるさと納税先団体が5団体以内であること。
 ⓑ 確定申告をする必要がないこと。
 ⓒ 2015(平成27)年1月1日から3月31日までにふるさと納税を行っていないこと。
③手続き
 ふるさと納税ワンストップ特例の適用を受けるためには、申請書に記入の上、ふるさと納税をする際に、ふるさと納税先団体へ申請書を提出する必要があります。
④転居等があった場合
 ふるさと納税を受けた自治体は、申請書に記載された内容を基に、納税者の住所地の市区町村に対して控除に対して必要な情報を連絡します。この情報により確定申告をしなくても控除が受けられる制度です。
従って、申請書の記載事項に変更があった場合には、ふるさと納税をした翌年の1月10日までに、ふるさと納税先団体の全てに変更届出書を提出しなければなりません。

(3)返礼品(特産品)送付への対応についての要請
 今回の税制改正の中で都道府県と市区町村に対して、ふるさと納税に係る周知、募集等の事務を適正に行うよう要請しています。具体的には、「地方税法、同法施工令、同法施行規則の改正等について」(平成27年4月1日付)により公表されていますので一部は次の通りです。
 ① ふるさと納税については、当該寄付金が経済的利益の無償の供与であることなどから、
   ⓐ 返礼品(特産品)の送付は寄付の対価でないことを周知させる
   ⓑ ふるさと納税の趣旨に反する返礼品(特産品)を送付する行為は行わない
        具体例:換金性の高いプリペイドカード
            高額又は寄付額に対し返礼割合の高い返礼品(特産品)
 ② 返礼品(特産品)は寄付の対価ではなく別途の行為であるため、受け取った場合の経済的利益が一時所得に該当すること
 ③ 窓口の明確化など、寄付者の利便性の向上
 ④ ふるさと納税の使途の周知
 ⑤ 寄付者の個人情報の厳格な管理

 2008(平成20)年にふるさと納税がスタートしてから今年で8年目になりました。当初は5,000円を超える部分が控除の対象として、生まれ故郷やお世話になった地域、応援したい地域への応援が目的としてスタートしました。
 今や地域の応援から返礼品取得を目的にふるさと納税が行われるようになり、返礼品の内容により集まる寄付金に偏りが生じるようになりました。寄付金を集めるために自治体間での競争の激化、実際に暮らしている地域への税収の減少が問題視されるようになってきました。
 今回の改正では、寄付する側の利便性だけではなく、加熱するふるさと納税の返礼品(特産品)合戦に待ったを掛けるものとなっています。納税の本来のあり方を見直す時期が来たのでしょう。

       参考資料  平成27年度税制改正大綱
             総務省 ふるさと納税ポータルサイト
             地方税法、同法施工令、同法施行規則の改正等について
                     (平成27年4月1日付総税企第39号)

| 税務調査 | 09:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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マニュアルで調査を行う若手の国税調査官

マニュアルで調査を行う若手の国税調査官!

  2014年10月13日の納税通信に以上の記事が載っていたので、紹介します。
いま、税務調査の真っ盛りでありますが、国税通則法改正(74条関係)の影響で調査件数は減少しています。しかし、1件当たりのパフォーマンスを追及する姿勢が強まっており、細かく厳しい調査が全国的に展開中なのである。
 心構えはもっていても、実際に調査となるといやなものである。調査官の性格をみて臨機応変に対応することも重要な調査対策である。(調査官も人の子である)
  普通、税務職員と言えば、‘怖い’というイメージがあり、‘黒っぽいスーツに大きなカバンを持って、鋭い目つきで、刑事のような’といった感じを想像します。
  実際、昔はこんな職員も多かったと思いますが、最近は女性調査官も増え、ソフトな印象に変わってきています。‘無表情でカタブツなイメージを抱いていたが、実際に調査に来た調査官は、やさしい顔つきで丁寧で表紙抜けした’といった声も聞くようになったそうです。
  国税局がまとめた納税者満足度アンケートの数字を見ても、‘職員の応接態度の好感度’(業績指標1-11)について5段階評価のうち、‘良い’または‘やや良い’との回答があった上位評価割合は21年度は84.0%、22年度は83.6%、23年度は85.2%、24年度84.3%と高く、税務職員の好感度アップを裏付けています。
  確かに、依然とは違う物腰のやわらかい税務職員・調査官が増えたように思います。
  しかし、‘怖い’というイメージが払拭されつつある一方で、‘職人気質が低下している’という指摘もあり、最近は税務調査の手順や手法、心得にいたるまですべてがマニュアル化され、税務調査の現場はもちろん、調査の引き継ぎや教育の場合で高度利用されている。現代は、何事においてもマニュアル化人間が増えているような気がします。
 つまり、応用が利かないのです。これにより他部署から異動してきた調査官や税務大学校を卒業したての新人調査官でも、着任早々、それなりに効率的に動けるようになりました。また、ある国税局が有効な調査手法を開発したとなれば、素早くマニュアル化されて他の国税局・税務署と共有され、全国統一的な調査展開に活かされています。
  昔は、経験と場数を踏んだ調査官ならではの‘勘’で、表向きはキレイに偽造された帳簿の裏に潜む脱税を暴いたという事件が多数あった。どうして分かったのか聞いても、‘勘としかいいようがない’という返事が返ってくるばかりという。こうした特殊能力をどうにか共有したくても、‘勘’まではマニュアル化できないのです。
  マニュアル化の副作用として‘会話力の衰退’を挙げるOBも多いそうです。
 ‘会話力’は、調査の場でもっとも強力な武器だという。調査先の社長との何気ない会話の中から大きな不正の糸口を掴んだ、というのはよくある話です。調査先の社長や経理担当者、税理士等と心を通わせ‘本音トーク’ができたことで、調査がスムーズに展開して申告漏れ発見につながったということもあるそうです。
  現役のベテラン調査官は、‘調査先に着いてまずやることは、納税者の話に耳を傾け、心をつかむこと’という。ベテランほど世間話で相手のガードを解き、調査の核心を探るのがうまいのです。確かにまず雑談から始める調査官が多いのもうなずけます。
  しかし若手の調査官の多くはこのような手法が苦手のようで、現役時代に調査畑でならした国税OB税理士は、‘冒頭のちょっとした会話から重要な情報が引き出せることもあるのに、最近の若手調査官は世間話のひとつもできない’と嘆いているのである。調査先に着くなり挨拶もほどほどに勘定元帳のチェックを始め、ベテラン調査官にこづかれる若手もいるという。機械化調査が一般化し、すべての技術がマニュアル管理されるようになってきた昨今、もっともアナログな‘会話力’が取り残されているのだという。人を相手にしていることを忘れてはいけないと思います。
  そんな現状を打開しようと、‘会話マニュアル’を作成して職員の会話力育成に努めている税務署もあるそうです。都内某署作成のマニュアルには、‘聞く態度’や‘鋭い質問’が相手の信頼関係につながり調査を成功に導くとして、質問の仕方や心得などを具体的に説いています。調査先から常に‘評価’されていることを念頭に置き、なめられることのないよう忠告している記述もある。こんなマニュアルが作られるのも、‘会話力’が重視されている証拠なのでしょう。
  税務調査は一般的に税務署側のペースで進んでいくものです。日々税務調査を実践している調査官と、十数年に一度受けるかどうかといった納税者とでは、経験値、情報量とも雲泥の差があるのは当然なのである。
  不慣れゆえに、淡々と仕事をこなす調査官の横で無駄にオロオロしてしまいがちですが、調査を制するには調査官を知ることが大事。今時の調査官のタイプを知ることで冷静さを保ち、調査の主導権を握られることなく納得のいく展開に導きたいと思います。

(引用・参考:納税通信 2014.10.13 第3342号、国税局ホームページ)


 

| 税務調査 | 17:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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税務署調査担当者の発言は公的見解か

税務署調査担当者の発言は‘公的見解’か?

 指導項目発言の後の更正処分は信義則に反するか?

『T&A master 9月8号 NO.561】に乗っていた東京地裁の判決を紹介します。
まず内容は、「原告企業が‘事前確定届出給与に関する届出書(付表)’に記載した届出額と違う金額を役員らに支給したことに始まる」事案で、その後更正処分が行われた事案です。(以下、「本件」という)。
 法人税法上、事前確定届出給与が損金算入の対象となるためには、届出書(付表)に記載した‘届出額’どおりの金額を支給しなければならない。
  したがって、原告企業が役員らに支給した事前確定届出給与は、‘届出額’と‘支給額’が違うため、全額が損金不算入となることはわかる。
  ところが、税務署の担当職員は、法人税法上損金不算入となる本件役員給与について、‘今回は更正処分をせず指導項目にとどめる’旨の発言を行った。
 そして原告企業は、調査担当者からの要請を受けて、‘支給額’を‘届出額’と同額に修正した付表を提出した。
 その後、税務署の調査担当職員は、税務署内で改めて検討した結果、‘本件役員給与が損金不算入となることは法人税法上明らかであり、指導事項にとどめることはできない’旨の修正申告をしょうようした。
 しかし、原告企業は、修正申告をする意思がない旨を回答した。(税務署担当者の要請どおり、支給額の訂正の付表を提出していたからだと思う)。
 そのため、税務署は、‘本件役員給与を損金不算入’とする内容の更正処分を行った。
  この更正処分を不服とした原告企業は、‘税務署の調査担当職員が更正処分をせずに指導項目にとどめる発言をした後に行われた更正処分は「信義則」には反するなどと主張して、更正処分の取り消しを求める訴訟を裁判所に提起していたものである。
 その結果、裁判所は、‘まず信義則により課税処分を取り消すことができる場合があるとしても、
(1)納税者が税務官庁の公的見解の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後にその見解に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか

(2)税務官庁の公的見解の表示を信頼した上で行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか
という点を考慮することが不可欠であると指摘したのである。公的見解について裁判所は、様々な状況下で行われる税務署職員の見解の表示のすべてが公的見解の表示となるものではなく、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であることが必要になると判断した、ということである。

 裁判所は、本件の税務調査担当職員による指導事項にとどめる旨の発言及び付表の差替え要請について、‘税務官庁の一担当者としての見解ないし処理方針を示したに過ぎず、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であるとはいえないと指摘した。そのうえで裁判所は、本件について信義則の適用を肯定すべき事由があるとは認められない‘として本件役員給与を’損金不算入‘する内容の法人税更正処分は適法であると結論付けたのである。
 そもそも‘信義則’とは、民法上の原則です。民法第1条2項には、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と書かれている。私人間では、相手の言動を信頼して行動し、その結果損害を被ったような場合には、信義則違反の問題が生じます。これは‘禁反言の法理’とも呼ばれ、一度いったことを覆すようなことは後からしてはいけない、という常識的な考えです。一般の感覚からすれば、対税務署の場合でも同じではないでしょうか。
 むしろ税務署職員の指導によるものであれば、より信頼するものではないでしょうか。ところが、現行の裁判実務では、課税処分に信義則を適用することには極めて消極的なのです。最高裁第三小法廷昭和62年10月30日判決があるからです。内容は省略しますが、この判決以降、課税処分が信義則違反とされたものは、見当たらないのです。
 それは、先程も言っているように、次の要件満たす必要があるとしたからです。

  ①税務官庁が納税者に対して公的見解を表示したこと
  ②納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づき行動したこと
  ③その後にその表示に反する課税処分が行われたこと
  ④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと
  ⑤納税者が税務官庁の表示を信頼し、その信頼に基づき行動したことについて責めに帰すべき事由がないこと

 この5要件があると、課税処分になぜ信義則が適用されにくくなるのか?
指導項目にすると納税者に伝え、納税者も要請に従って行動を起こしたわけだから、後になって更正処分を行うのはどうかと思うのですが。 
 この判決を見ると、一税務署職員の発言や要請に従う必要なし、ということになるのではないでしょうか。つまり、税務署長及びその他の責任ある立場にある者のお墨付きがあるまで、従う必要なし、ということになるのではないでしょうか。
 
  {参考・引用 T&Amaster 9/8号 NO.561、民法第1条2項、最高裁判決} 
    

| 税務調査 | 13:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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国外財産調書

「国外財産調書」の実態が明らかに!

今年も国税職員の人事異動が7月10日に行われたが、国税庁のトップである国税庁長官には林信光氏が7月4日付で就任したとの報道があった。
週刊税務通信No3322 8月4日号及びT&AmasterNo557 8月4日号では、両紙とも林信光国税庁長官の就任インタビュー記事が掲載されていた。
その中で林国税庁長官は、特に富裕層の国際的な租税回避に対する対策としてプロジェクトチームを立ち上げたことを明らかにした。この発言の趣旨を考えると、次のことが分かってくる。
7月31日付け国税庁発表の記事によると、2014年1月から施行されている、「国外財産調書」の提出状況が判明した。「国外財産調書」とは毎年12月31日現在、国外(海外)に5000万円以上の資産を保有している個人は、翌年3月15日までに「国外財産調書」を作成し、所轄の税務署に提出することが義務付けられている。本年分に関しては初年度という事で罰則はなかった。しかし、次年度からは罰則の適用がある。正当な理由なく期限内に提出が無い場合または、虚偽記載の場合には、1年以下の懲役又は50万以下の罰金が適用になる。
それでは、今年の状況はどうであったのだろうか?
総提出件数は、全国で5,539件 であった。
各国税局別の件数は、東京国税局、大阪国税局、名古屋国税局の順に多く、この3国税局で全体の約9割(88%)を占めている。
そして、国外財産の価額の総合計額は、約2兆5千億円 にのぼる。
各国税局別の総財産額に占める割合についても、東京国税局、大阪国税局、名古屋国税局の3国税局で約9割(94%)となっている。
この提出件数及び申告金額は実態を反映しているのだろうか?

財産の種類別を国税庁のHPより抜粋
財産の種類別総額 財産の種類 総 額 構成比
有価証券 1兆5,603億円 62.1%
預貯金 3,770 15.0
建物 1,852 7.4
土地 821 3.3
貸付金 699 2.8
上記以外の財産 2,396 9.5
合計 2兆5,142 100.0


ところで、日本の富裕層とはそもそも何人ぐらいいるのだろうか。
2014年6月10日付ボストンコンサルティンググループが、「2014年版グローバルウエルス・レポート」の中で世界の富裕世帯数の統計ランキングを発表している。
それによると、家計金融資産100万ドル(日本円で1億200万円)以上を保有する世帯を富裕層と定義しており、全世界では1630万世帯あるという。
日本の家計金融資産は前年比4.8%増の15兆ドル(1530兆円)、富裕世帯数は124万世あるという。世界ランキングでも第1位のアメリカ713.5万世帯、第二位 中国237.8万世帯の次にランクされている。ちなみに、この上の超富裕世帯 家計資産1億ドル(102億円)以上になると、アメリカ・イギリス・中国・ドイツなどの順になっており、日本はランク圏外になっており集計がとれなかった。
日本の富裕世帯は平均して多いが、資産1億ドル以上の超富裕世帯はそれほど無いということだ。
いずれにせよ、この富裕層が抱えている金融資産は日本国内にはとどまらず、世界各地へ移動している。今まではこのフローの所得に所得税・法人税などが課税されていた。
しかし今後は、ストックしての財産を見つけ出し、それに相続税等を課税する方向に転換しだしたことである。
冒頭の国税庁長官の発言は、まさにこのような富裕層をターゲットにしたストック対策に本腰を入れることである。2015年度からは「国外財産調書」の提出が本格化してくると予想される。
富裕層の皆さん、くれぐれも出し忘れ、虚偽記載をしないように日ごろから自分の財産の管理をして頂きたい。


                              以  上
参照:週刊税務通信No3322 8月4日号
:T&AmasterNo557  8月4日号
:国税庁HP
 

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