税理士 向山裕純の税のなんだパンダ

創業45年を迎えました。難しいと思われがちな税金についてわかりやすい解説をしていきます。税金以外にも時事問題など取り上げていきます。

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役員への巨額な損害賠償金の支払い命令

   支払いのカギを握るのは「会社役員賠償責任保険」

 平成23(2011)年に発覚した光学機器大手オリンパスの巨額損失隠しを巡る株主代表訴訟などで東京地裁は4月27日、菊川剛元会長(76)など旧経営陣ら8人に総額590億円の損害賠償を命じたとの新聞記事が載りました。
 過去を振り返ってみても、億単位の損害賠償命令が出た事案はありました。個人でこのような多額の損害賠償金が支払えるのかと疑問に思われる方もいるかと思います。
 しかしながら、ニュース等で取り扱われるのは裁判の判決までで、実際に支払が行われたかについてはあまり報道されていないような気がします。

1. ミスタードーナツの事例
 「ミスタードーナツ」を展開するダスキンの旧経営陣が、無認可添加物入りの肉まんの販売で会社に損害を与えたとして、元取締役にその賠償を求める株主代表訴訟の控訴審について、平成19(2007)年1月18日に大阪高等裁判所は、肉まん販売に関する直接の責任者だった元取締役2人に対し、53億4350万円の損害を命じました。
 ダスキンによると2人は総額の約1割弱しか支払えず自己破産をしています。

2. 住友電気工業の事例
 光ケーブルなどを巡るカルテルを結び、独占禁止法違反で約88億円の課徴金を納付した住友電気工業の当時の役員ら22人に同額の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、役員らが会社に5億2000万円の解決金を支払う和解が平成26(2014)年5月7日、大阪地裁で成立しました。
 この和解金については全額支払いがされていますが、「会社役員賠償責任保険」が適用されたとみられるのです。
 
3.会社役員賠償責任保険
 「会社役員賠償責任保険」は、役員個人が株主代表訴訟や第三者から被告として訴えられた時に訴訟費用に備えるための保険なのです。ただし普通保険約款等においては、株主代表訴訟や第三者からの訴訟で敗訴した場合の賠償金や和解金については免責との条項が設けられているため、株主代表訴訟や第三者からの訴訟で敗訴した場合の賠償金や和解金を保険対象に含める旨の特約(以下、「株主代表訴訟担保特約」といいます。)を付さないとカバーされないので、注意が必要です。
 保険料については、個別に決める支払限度額や企業規模、業種で異なります。限度額が高額であれば当然保険料の高額となり、限度額が数十億円ともなれば保険料も1千万円を超えることもあるようです。

4.保険料の負担(従前の場合)
 会社が会社役員賠償責任保険の保険料を支払った場合、「株主代表訴訟担保特約」部分の保険料については、会社法上の問題に配慮して会社から役員に対する経済的利益の供与があったものとして給与課税の対象とされていました。

5.新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱い
 経済産業省が平成27(2015)年7月24日にコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会が取りまとめた報告書により、一定の手続きの下、会社が会社役員賠償責任保険(株主代表訴訟敗訴時担保部分)の保険料全額を負担してもよいことを明らかにしました。
 このため国税庁からも、一定の手続きを経ることのより、当該保険料を会社法上適法に負担した場合には、役員に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はないものとして取り扱われる旨が公表されました。

6.一定の手続き
 次の①及び②の手続きを行わなければなりません。
①  取締役会の承認
②  社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得

 国の調査によると大手上場企業の9割が会社役員賠償責任保険に加入しています。訴訟リスクの高まりと取締役会の承認や社外取締役全員の同意があれば保険料を全て会社が負担できるので検討する企業も増えるのではないでしょうか。
 ただし、会社役員賠償責任保険に加入していたとしても必ずしも保険金が支払われるとは限りません。どの保険会社でも免責条項を定めており役員である被保険者が私的利益のための行為や違法行為を認識していた場合等には保険金が下りないこともあるのです。

参考資料  毎日新聞 Yahoo!ニュース 5/4(木)19:17配信
      会社役員賠償責任保険の保険料に関する税務上の
                     取扱いが公表されました(経済産業省)
       nikkeiBPnet 2007年1月19日 11:36
      日経新聞2014年5月7日
      新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて
                         (国税庁ホームページ)

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| 保険税務 | 18:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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加入義務違反について本格調査

厚生年金保険・健康保険の加入状況にかかる調査について

 2016(平成28)年4月にはいってから厚生年金保険・健康保険(以下「厚生年金保険等」)への未加入の事業者に対して「厚生年金保険・健康保険の加入状況にかかる調査票」が届きはじめました。また、加入状況に関して事業所に調査に来たという話も聞きました。法人事業者及び一定の要件を満たす個人事業者には厚生年金保険等への加入が法律で義務付けられています。

1.加入義務のある事業所
 厚生年金保険法6条に強制適用の事業所が定められており、日本年金機構のパンフレットでは次のようなチェックシートの載せています。

あなたの事業所は法人登記をしていますか ⇒ YES 加入義務があります
      ⇓ NO
個人事業所であるあなたの業種は次の業種は、
 農林水産業・サービス業・宗教等ですか⇒ YES 加入義務がありません
     ⇓ NO
常時使用している従業員が5人以上ですか ⇒ YES 加入義務があります
      ⇓ NO
加入義務はありません

 つまり、全ての法人事業所及び厚生年金保険法に定められた16業種で常時5人以上の従業員がいる個人事業所(農林水産業、サービス業、宗教等の非強制適用業種以外の事業所)は加入義務があるのです。

2.厚生年金保険・健康保険の加入状況にかかる調査の背景
 2015(平成27)年12月に公表された国民年金被保険者実態調査において、勤務先の事業所が厚生年金の保険料を不正に逃れ、従業員約200万人が厚生年金に加入できず国民年金のままになっているという厚生年金加入漏れの実態が明らかになっています。
 そのため、塩崎恭久厚生労働大臣は本年1月13日の衆院予算委員会で、日本年金機構を通じて実態調査に乗り出す意向を表明しました。厚生年金適用を逃れている可能性がある全国焼く79万ヶ所の事業所全てに調査票を送付するとともに、年金機構職員による事業所への調査を行う方針も示されました。

3.厚生年金逃れに刑事告発も視野
 厚生年金保険法では第102条から105条に罰則が定められています。その中で加入義務のある事業所が加入を怠った場合には「6月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とされています。
 本年1月19日の記者会見において塩崎恭久厚生労働大臣は、保険料を負担する能力があるにもかかわらず納付しない悪質な事業所に対し、刑事告発を検討する考えを表明し、日本年金機構による悪質事業所への立ち入り検査を強化する方針を合わせて示しました。

4.強制加入で全て問題解決?
 厚生年金への加入は基礎年金のみに比べて、①将来自分が受け取れる給付額が増加します、②障害が生じた場合の給付額が増加したり補償対象が広がります、③亡くなった場合の遺族への給付額が増加したり、受け取れる遺族の範囲が広がるなどのメリットがあります。
 ただし、保険料は高くなりますし、事業所が半分負担するため加入を拒む事業所が出てくるのです。厚生年金への加入を望みながらも事業所が未加入のため国民年金に加入せざるを得ないということはよく耳にします。
 一方で加入を希望しないという声も耳にします。夫が厚生年金に加入している場合にはその妻は年収が130万円以下であれば第3号被保険者に該当するため、あえて自分は被保険者になりたくないというケースです。

 消費税増税が再延期となったため、増税分が充てられるはずだった社会保障費は大幅に削減されてしまいました。今回の未加入事業者への調査と悪質な事業所への罰則適用もそのようなことも要因のひとつなのでしょうか。


 参考資料  日本年金機構ホームページ
        厚生年金保険・健康保険の加入状況にかかる調査票
        厚生年金保険法
        産経ニュース 2016.1.14 07:36
       産経ニュース 2016.1.20 09:11





| 保険税務 | 18:15 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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小規模企業共済の給付額がアップ

小規模企業共済の給付額がアップ!

(1)27年度の税制改正で‘共済事由’が見直し
 小規模企業共済制度は、小規模企業の役員が退職した後の生活資金や、個人事業主が廃業した後の再起をサポートするための共済制度として昭和40年に始まったものです。
 まず、加入資格があるのは常時使用する従業員が20人以下(サービス業・小売業などは5人以下)の役員(個人事業主を含む)です。これも以前は家族従業員の加入はできませんでしたが、平成22年度の改正で、➀事業の経営において重要な意思決定をしている、➁事業に必要な資金を負担している、➂事業の執行に対する報酬を受けているーなど、共同経営者としての資格を満たしている場合には加入を認めるよう改正されました。
 掛け金は月額1,000円から70,000円の間で自由に設定できます。納付した期間と納めた掛け金総額に応じて、支払事由が発生した時に共済金を受け取る仕組みです。廃業や死亡の場合のほか、65歳以上で180ヶ月以上の加入期間があれば、加入者がリタイアしていなくても‘老齢給付’として共済金を受け取ることも可能です。
 このとき以下の添付書類が必要になります。
     ①印鑑証明書、②戸籍謄(抄)本、③共済契約締結証書
 1つ注意したいことは、同じだけ掛け金を支払っていても、共済金が支払われる際の状況によって受取額に差がでるという点です。
 共済金の支払いが生じたときは、その事由によって「A・B・ 準」の3種類に分類して給付額が算定されます。廃業や死亡、第3者への事業譲渡を行った場合は、掛け金にはおおむね1.0~1.5%の利率で複利計算した額が支払われる「A共済事由」になります。また、リタイアせずに65歳以上で受け取る老齢給付の場合は、掛け金におおむね1.0%の利率で複利計算する「B共済事由」となります。これらに対し、配偶者や子に事業承継をした場合は、掛け金総額相当しか支払われない「準共済事由」となってしまいます。共済事由と納付額・期間に応じて、基本となる受取額は決まっています。
 仮に個人事業主が毎月1万円を20年間(240ヶ月)納付した場合、廃業時に受け取れる金額はA共済事由の基本給付額になる278万6400円になるのに対し、子に引き継ぐ場合は準共済事由の基本給付額である241万9500円となり、支払った掛け金は同額にもかかわらず、受け取れる金額には約40万円の差が出てしまう。この差が生まれる理由は、制度が導入された目的が廃業や退職時のフォローであったため、事業承継での活用を視野に入れていなかったことによります。
 ここで加入時には、将来の事業の行く末を見て加入することが大事です。個人で加入すれば、所得控除となり節税効果はありますが、給付を受ける段階でどの事由で受け取るかも決める必要があると思います。

(2)配偶者・子への事業承継の減額廃止 
 近年、中小企業経営者の平均年齢が上がるに伴い、事業承継の促進が喫緊の課題となっていることから、政府はこの制度を見直し、平成27年度改正で両者の差をなくす動きになっています。子や配偶者への承継についてもA共済事由に引き上げることで、円滑な事業承継のために活用させることにしました。
 併せて、役員の退任についても死亡・疾病などを理由としない退任はB共済事由へ引き上げる。さらに共同経営者が独立開業した時に、独立前と独立後の納付期間を通算して複利計算できるようにする。これらの改正によって、中小企業の世代交代や独立を進めるという意図が見えます。

(3)節税効果
 トリプル税優遇といわれるのは、➀掛け金の払い込み時、➁共済金の受け取り時、➂本人が受け取らなかった場合の遺族の受け取り時、の3段階で税優遇を受けられるからです。
 まず、共済への掛け金は、‘小規模企業共済等掛金控除’として、その全額が所得金額から控除されます。掛け金の上限は7万円なので、1年で84万円控除することができます。
 さらに、廃業や65歳を超えての解約によって共済金を一括で受け取る場合、その収入は‘退職所得’となって退職控除を受け、課税されるのはその2分の1になるのです。
 また共済金を一括でなく分割で受け取った場合、収入は‘公的年金等の雑所得’になります。ここでも65歳以上であれば1年当たりの受取金額を120万円以下に抑えることで全額が控除されます。
 一括と分割の併用による受け取りも可能なため、自分のプランに合わせて共済金を受け取り、節税を行えることになるのです。

(参考:月間社長のミカタ 2015年5月号、小規模企業共済冊子、27年度税制改正案)

| 保険税務 | 09:51 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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相続対策と生命保険

      相続対策と生命保険

 今年に入って生命保険の加入者が増加していると保険外交員から聞かされた。
社団法人 生命保険協会のホームページを検索してみると、「生命保険の動向調査」という統計資料が毎年10月に発表されていることが分かった。最新の2013年度版を見ると、個人保険の新規契約件数は1967万件で前年比121.3%増。新規契約高では71兆3456億円と前年比108.8%増となっている。昨年のデータではあるが、確かに増えているようだ。ちなみに、個人保険の保有契約件数は1億3601万件、保有契約高は861兆6513億円にもなっている。
考えてみると、その背景の一因となっているのが、2015年1月から改正になる相続税の課税強化対策なのかもしれない。
 本来生命保険加入の目的としては、本人が病気・怪我等で入院・手術をした場合や、万が一の時の家族への保障であったはずだが、近年は老後の年金対策や、相続対策に利用されることが多くなってきている。
相続対策としての生命保険の活用としては、まず第一に、死亡時に保険金がすぐに入金になり、それを納税資金に利用する事が出来ることだ。更に、メリットとしては、死亡保険金の受取人を指定することにより、受取人固有の財産になることである
一般的に被相続人が死亡した場合、現金・預金・不動産などは遺産分割協議の対象になり凍結される。
もし、預貯金を引き出したい場合は、相続人全員の同意と全員の印鑑証明及び戸籍謄本が必要になる。そこでよく見受けられるのが、預貯金が多い場合ほど相続人間でもめる「争族」だ。
その点、保険金は受取人の印鑑証明と戸籍謄本があれば1週間以内には受け取ることが出来る。また、相続税の対象になっても民法上は受取人固有の財産に当たるため、遺産分割協議、遺留分減殺請求の対象外とされている。

 次に相続放棄をしていた場合の保険金の受け取りに関してはどうであろうか。
生命保険金は保険契約に基づき受取人が原始的に取得する者であり、受取人の固有の財産とされている。従って、たとえ相続の放棄をした者であっても保険金は受け取ることができる。なぜならば「相続放棄」とは被相続人が残した被相続人の財産について、相続する権利を放棄する事である。もともと受取人の財産である保険金を取得する権利を放棄するという事ではないからである。
「相続を放棄した者」とは、民法938条の規定により、家庭裁判所への法的手続きにより相続の放棄をした者をいう。
ところで相続税法では、相続人が相続により取得したとみなされる生命保険金については、一定額まで非課税とされている。(相続人1人当たり500万円×相続人数 で計算される)相続人3人の場合なら、1500万円の非課税枠が受けられる。
しかし「相続を放棄した者」は当然「相続人」としての取扱いを受けられない。
そのため相続を放棄した者が保険金を取得した場合には、相続人以外の者が「遺贈」により取得したという扱いを受けることになる。したがって、上記非課税枠の規定は適用されないことになるので注意が必要だろう。
 このように生命保険料は使い方次第では「争族」防止にも有効なものにもなる。
ただし、長い間かける保険料は金額的にもばかにできないものだ。そして保険の種類も多岐にわたっている。
まずは保険外交員の説明を良く聞き、自分の収入と家計とのバランスを考え、生活を圧迫するような保険の掛け方をだけは避けたいものである。


              参照: 社団法人 生命保険協会HP
                  日本経済新聞朝刊 2013年3月20日記事
                  保険と税務Q&A  税務研究会出版局

| 保険税務 | 10:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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保険業界は「戦国時代」

保険業界は「戦国時代」へ

子会社に販売奨励金名目で支出した経費に実態がなかった(国税当局は仮装・隠蔽を伴うと判断)

保険の乗り合い代理店最大手、ほけんの窓口グループ(東京・渋谷)と子会社が東京国税局の税務調査を受け、2013年6月期までの7年間に約2億8千万円の所得隠しを指摘されていたことが1日、分かった。子会社に販売奨励金名目で支出した経費に実態がなかったとして、国税当局は仮装・隠蔽を伴うと判断したもようだ。
 経理ミスなどを含めた申告漏れの総額は約9億9千万円。重加算税を含めた追徴税額は約3億円とみられ、すでに修正申告したという。同社は1日、「会社を根本から作り変えるべく改革の努力の最中で、国税局の指摘を真摯に受け止める」とのコメントを出した。

 同社や関係者によると、同社は100%子会社のライフプラザパートナーズ(東京・渋谷)に対し、販売奨励金として13年6月期までの3年間に約1億8千万円を支出したが、国税当局は役務の提供などがなく、販売奨励金としての実態がないと認定。経費ではなく寄付にあたると判断した。
 前社長の親族に、関連会社の役員としての勤務実態がないのに役員報酬を支払っていたとして、架空人件費も認定。子会社の部長による不正経理も調査の過程で発覚し、重加算税を課した。
保険の窓口を巡っては、創業者の前社長が消費税約2500万円の不正還付を受けたとして東京国税局の査察を受け、東京地検特捜部が昨年7月に在宅起訴。同年11月に東京地裁が懲役2年、執行猶予3年、罰金320万円の有罪判決を言い渡した。

 民間信用調査会社によると、保険の窓口の13年6月期の売上高は202億円。訪問販売が主体の従来型の保険営業に対し、中立的な保険選びの助言を掲げ、店舗を全国展開している。
ここで、本職と親しいフリーライター・逧阜八氏に保険業界 は、戦国時代 の状況を、説明してもらう。
保険各社がつくる商品の組み合わせを提案・販売する「保険ショップ」が、街角や商店街、ショッピングセンターなどで増えている。大手の生命保険会社や損害保険会社と委託契約を結び、顧客の相談を受けて最適な保険を販売し、保険会社から販売手数料を得るビジネスモデルだ。約15年前から急拡大し、保険ショップの数は全国で約1500もあるといわれる。ところが、熾烈な「出店競争」の一方で、保険ショップの草分け的な存在ともいえる「保険市場」(大阪市)が、拠点を集約するという正反対の戦略をとりはじめた。これは、業界淘汰の前触れなのか、新たなビジネスモデルへの転換点なのか。「保険」とも密接な関係にある税理士・会計事務所にとっても、その動向を把握しておくことは重要な意味をもちそうだ。

ショップは飽和から淘汰の段階に

 「娘が生まれたので、学資保険加入と、ついでに家族の保険を見直したくて」。大型SC内のある保険ショップを訪ねた都内の主婦は、結局、保険加入は見送ったという。「結局、限られた商品をすすめられた気がする。相談するひととの相性もあるのかもしれません」。ほかの保険ショップに相談することも検討しているが、保険相談は一件の相談あたり2~3時間かかるだけに、次のショップ選びも迷っていると話す。
 「ほかのショップの提案内容をもって相談に来る〝ハシゴ客〟はよくいます」。保険ショップ関係者はこう指摘する。保険商品の比較検討をするショップの急増で業界は買い手市場となっているのだ。提案内容の違いはあるが、同じ保険商品であればどこで加入しても保険料は同じ。それならば、より質の高いコンサルティングを求めるのは当然だろう。
 拡大を続ける業界で、「出店攻勢」とは正反対の戦略で差別化に打って出ようとしているのが、大阪の保険ショップ大手「保険市場」だ。「全店舗を都心オフィスビルに移転する」という方針を突如打ち出し、他社とは対照的に店舗を集約。ピーク時の約200店舗から12店舗(平成25年5月現在)にまで減らしている。「保険市場」では、店舗の集約戦略について、「完全予約制のプライベート空間にキッズスペースも設け、ゆったり接客する。それには都心のオフィスビルが最適」としており、新たな店舗構想に自信をみせる。
戦略転換のきっかけは顧客調査だ。SCは入りやすい半面、「人通りが多くて相談に集中できない」「子供が飽きてしまい、ゆっくり相談できない」という課題が浮かび上がったという。そこで「従来のSC内店舗では、高いクオリティのコンサルティングができない」と判断、店舗の環境整備とコンサル力向上を武器にしていく方針を打ち出したわけだ。「顧客の入り口はネット」という同社ならではの戦略だが、人通りの多い場所で店舗の認知度を上げて顧客を獲得してきた業界だけに、その成否が注目される。

出店攻勢、店舗集約、生き残り戦略も岐路

 自分で保険を比較検討したいというニーズの高まりを受け、大手生保もネット世代の若年層顧客の掘り起こしを狙い業界に参入している。明治安田生命は子会社MYJが首都圏で「ほけんポート」4店舗を運営。住友生命は子会社いずみライフデザイナーズで「ほけん百花」などを全国展開しており、昨年4月には新たに東京や大阪で4店舗をオープンし、56店舗体制とした。ただ、飽和状態の保険ショップ市場、しかも後発とあってか、今後の出店には慎重な姿勢で、大型SCや百貨店、交通の便や通行量など、顧客に認知してもらえる好立地にこだわる方針だ。
 保険ショップは顧客が選んで来店し、商品も自分で決める顧客主導型のビジネス。このため大手の看板といえども容易には通用しない。親会社の商品は扱ってはいるものの「自分で選んで組み合わせたい顧客」が中心のショップでは、自社のパッケージ型商品はあまり売れない。ここでも収益源はやはり他の保険会社からの販売手数料収入となる。このため、いずみライフデザイナーズでは販売手数料の高低にかかわらず顧客に合う提案をできるよう職員を歩合制でなく固定給にしているという。
 一方、拡大路線をひた走るのが保険ショップ最大手の「ほけんの窓口」グループ。約5年前には全国100店舗ほどだったが、平成25年5月には約400店舗に伸ばし、将来的に1000店舗を目標に掲げる。しかし昨年4月、グループの創業者で前社長の今野則夫顧問が、個人の資産について税務調査で申告漏れを指摘されたとして引責辞任するなど、今後の展開には曲折もありそうだ。
生命保険業界はかつて、企業での説明会や職場訪問による大手の「職域営業」が主流だったが、企業のセキュリティー強化などで職場訪問が難しくなり顧客接点が減少。さらに20~30歳代の若年層は、インターネットで保険について調べ、ネット専業保険会社で契約するというパターンも増えてきた。その間隙を縫って登場したのが保険ショップ。保険商品は保障内容の違いがわかりにくく、終身保険などは契約が長年にわたるうえ、支払いも高額になる。保険ショップは「大きな買い物ほど専門家のアドバイスを求めたい」という消費者心理と、収入増が期待できないご時世に、「必要な保障を必要なだけ欲しい」というニーズを背景に急成長を遂げた。しかし、これまでは保険ショップを頼りに商品を比較していたはずの消費者が、保険ショップをも比較し始めた。

税理士・会計事務所は〝最強のショップ〟

ここで注目されるのが、保険税務にまで精通している「専門家」、つまり税理士・会計事務所の存在だ。保険料控除など、初歩的な節税アドバイスから、相続税対策としての保険活用まで、「税」に関する相談に応じられるのは当然ながら税理士だけだ。保険ショップ側としても、「税金相談」にまで乗り出したいのが本音ではあるが、そこは税理士の「無償独占業務」であり、コンプライアンス遵守を徹底する業界であるがゆえに、税理士法に抵触するような「コンサルティング」業務を提供するわけにはいかない。
税理士・会計事務所は、税理士法の規定により、自ら保険勧誘・契約行為はできないが、じつは「最強の保険ショップ」であるともいえるのだ。

金融庁が監督指針を強化

しかし、拡大の一途をたどるかに見えていた来店型保険ショップ業界にも、規制強化の波が押しよせてくるのは間違いなさそうだ。金融庁は1月16日、保険会社に対して、代理店が第三者に保険販売を再委託することを禁止する監督指針の改正案を公表した。顧客に不利な商品を販売しないように規制を強化するもので、平成27年をめどに再委託の解消を目指すとしている。金融庁ではすでに、すべての生命保険会社と損害保険会社に対して報告命令を出しており、再委託販売の実態解明にも乗り出している。
 保険業法では、代理店が第三者に再委託して保険販売することを禁じているが、実際には「募集人」と呼ばれる再委託者が定期的に代理店に出向いて研修を受けることで、容認されてきた。しかし、販売の際に商品説明が不十分だったり、高い報酬を得るために過剰な契約を勧めたりするケースが増加するなど、来店型保険ショップというビジネスモデルの問題点が指摘されるようになってきた。
また、老舗のいわゆる「ひらがな系の生保」では、自社で抱える営業マン・営業レディの商圏が、ショップに奪われるうえに、外資のいわゆる「カタカナ系の生保」ほどには高い手数料が設定できないため、ショップでの販売数が伸びていない。さらに、「ひらがな生保」の商品は、ショップでは「他社の商品を売るための比較対象商品」として紹介されてしまっているケースもあるという。このため、今回の金融庁による監督強化の背景には、「過去、当局からの天下りを多数受け入れてきた、ひらがな生保による規制強化の要請」があったとする見方も出ている。
 金融庁は、今回の改正案で、正社員や派遣社員など代理店に勤務している者だけが販売できることを明記し、法運用を厳格化する。これによって、急成長してきた来店型の保険ショップは事業モデルの修正を迫られることになるだろう。代理店に代わって保険を販売する「募集人」の雇用コストが増すことに加え、「販売力を落とす保険ショップも出る」との見方が根強いためだ。
 来店型の保険ショップは、店頭で複数の保険会社の商品を紹介する保険代理店の一種だ。各社の商品を比較しながら選べる利便性から契約を増やし、事業を拡大してきた。しかし今回の監督強化により、ショップによっては、これまで販売を委託してきた「募集人」と雇用契約を結ぶなどの対応を迫られるケースも出てくるものとみられる。

ソニー生命の最大の販路はショップ

 契約獲得で保険会社が保険ショップに依存する度合いはまちまちだ。大手生保は自前の営業部隊を持つ一方、外資系や新興企業などは保険ショップ経由の新規契約が全体の約3割にのぼるところもある。
 そうした新興企業の代表格ともいえるのが「ほけんの窓口」グループだ。昨年、税務当局から脱税を指摘された創業者の今野氏は、ソニー生命のライフプランナー(営業社員)の出身ということもあり、同社とソニー生命の関係は親密だ。業界事情に詳しい業界紙の記者によると「ほけんの窓口の各店舗では、あまりにもソニー生命の保険商品の販売に傾注しています。中立な立場で、すべての保険商品を公正に比較して、契約者にマッチした保険を紹介しているなんていうのは建前に過ぎません。今回、金融当局が監督強化に乗り出した背景には、間違いなくこの〝特定の保険会社と代理店との親密すぎる関係〟という問題があります」という。
それを如実に示すのが、「SPC」の上位ランキングだ。SPCとはソニー生命が主催し、優秀な成績を収めた代理店を表彰する会のことで、ほけんの窓口を筆頭にライフプラザパートナーズなど、グループ傘下の会社を合計すると、じつにソニー生命全体の手数料シェアの3割強を占めている。
この「手数料」にも消費者保護の観点から当局は注目しているという。代理店が保険を販売すれば、当然、保険会社から手数料が支払われるわけだが、契約者が支払った保険料(初年度)に対し、ほけんの窓口クラスの超大型代理店ともなれば、専用ボーナスを加算すると、じつに保険料の8割近くもの手数料が支払われるという。もっとも、高額な手数料で知られるメットライフアリコでは、初年度の保険料の2倍近くを支払うケースもあるという。
これらの手数料について金融庁が問題視していることは間違いなく、昨年、ソニー生命の京都営業所へ検査に入った際にも、ソニー生命の営業社員出身者が社長を務める大型代理店「ホロスプランニング」があることから、「ソニー生命への検査は検査として、本命で調べたかったのは代理店のホロスのことだったのではないか」と、前述の業界紙記者は観測している。 
ソニー生命にしても高額な手数料問題を金融庁ににらまれるのは得策ではないだろう。そこで同社では〝脱ほけんの窓口〟を合言葉にしているが、販売が伸び悩んでいる現在の状況では「ほけんの窓口とは手を切れない」(ソニー生命幹部)というのが実情だ。 
むろん、ほかの生損保も程度の差こそあれ、ソニー生命とやっていることは同じだ。昨年、「ほけんの窓口」グループが冠スポンサーとなって開催された女子プロゴルフ大会では、前日のプロアマトーナメントに生損保10社、17人の幹部が顔をそろえたほどだ。保険業界各社が「ほけんの窓口」の販売力に依存する構図は依然として続いている。 
中立公平をうたいながらも手数料が高い商品に傾斜して販売する代理店がある。その一方で、税理士・会計事務所のように、納税者の立場を再優先に考えて、最適な保険商品を「提案」に加え、愚直なまでに顧客ニーズに応えようとする「窓口」や代理店もある。
金融庁がどこまでメスを入れられるのか、注視していかなければならないが、税理士・会計事務所ではそれと同時に、「来店型保険ショップ」の多難な前途を見越して、この時期から「保険に強い」人材の確保に乗り出すべきかもしれない。
今回の監督強化により、販売員との雇用契約が不可欠ということになれば、保険・代理店各社では、必然的に営業成績の良いトップセールスマンから順に正社員化していくだろう。しかし、「代理店」や「委託募集人」として、いわば〝一匹狼の賞金稼ぎ〟でこれまで通してきた「プロ」には、雇用関係に縛られたくないという思いもある。
多くの顧客や人脈を持つこうした凄腕の「元委託募集人」を「人材」として確保したり、ビジネスパートナーとして提携関係を構築したりすることができれば、税務の仕事の幅も広がっていくかも知れない。
                                          【フリーライター・逧阜八】

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